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地政学 論理的思考

多様性が要請するものについて考えてみよう

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多様性を認める動き

  • 今や、ダイバーシティと言えば毎日のようにどこかでニュースになっている。今年の初めに森元首相が女性蔑視発言で批判を浴びたことは記憶に新しい。LGBTや障がい者などのマイノリティから、人種、年齢、性別に関する配慮のない発言は社会的にNGだ。時代は多様性の時代へと入っていることは間違いない。
  • 米国のディズニーは、同社のテーマパークにおけるダイバーシティの推進の一環として、従業員の容姿に関する制限を緩和し、一定のルールの下でタトゥーや好みの髪型、アクセサリー類の着用などを認めることを発表した。同社は従業員の身だしなみに関する細かい規定が存在している。今回の制限緩和はそのようなポリシーを一部柔軟に変更することにより、キャストたちが職場で自分のカルチャーや個性をよりよく表現できるようにするためのものだという。これらはテーマパークの多様性と文化的配慮を高めるための動きだ。
  • もはや今となっては遠い昔のようでもあるが、コロナ禍の前にはグローバルに人の往来があったため、世界に進出している企業では異なる文化、異なる言葉、異なる考え方や価値観のメンバーで共同作業をする必要があった。その状況自体は今も変わるところではないが、直接会って話ができない以上、身振り手振りや表情の機微がとらえにくくなり、オフタイムの雑談などの時間が奪われ、コミュニケーションの形式の重要性が以前にも増して高まってきている。

論理的思考能力の重要性

  • こうした状況下で以前から言われていることではあるが、論理的思考能力が非常に重要となってきている。言葉や価値観が違っても、論理は変わらないからだ。この点、わたしたち日本人は高コンテクスト文化に属しているため、あえて言葉に出して相手に主張することをしない。論理的に誤っていると思われることでも飲み込んでしまうことが多い。これは論理的かどうかというよりは言葉に表現された内容をどの程度重く見るかということであるが、日本は言葉として表現された内容以外にも、文脈により相手の意図などを察したりする度あいが強い。察するとか、忖度するなどの言葉が代表的だ。
  • こうした指摘は米国の文化人類学者、エドワード・ホールによる「文化を超えて」(エドワード・ホール, 阪急コミュニケーションズ新装版, 1993)で明確にされた。エドワード・ホールによると、日本とは異なりロー・コンテクストなコミュニケーションは結果を重視し明示的に相手に伝えることを重視する文化であり、スイスやドイツ、アメリカが顕著にその傾向を示しているという。また、ハイ・コンテクストなコミュニケーションはプロセス重視で暗示的に相手に伝えることを重視する文化であり、日本の他にアラブ諸国や中国などが顕著にその傾向を示す。
  • コロナ禍により場合によってはビジネスで最初から最後まで直接会わずにコミュニケーションをするケースも出てくるだろう。接点が少ない分、相手の雰囲気や言外のニュアンスなどを読み取ることは難しくなる。あえて言葉に出して確認することが重要になるのだ。多様性が進んだアフター・コロナ社会では、以前にも増して論理的かつロー・コンテキストなコミュニケーションが必要になるだろう。
  • 日本でも最近話題に取り上げられることが多くなってきているダイバーシティの概念は、論理的であると同時にロー・コンテキストなコミュニケーションと相性がいいのだ。このことを忘れてはいけない。人そのものの共通点が分散した分、コミュニケーションの解釈の幅を限定的にしておく必要が出てくるのである。
  • 多様性はまた別の視点で共通項を要請する。それが地政学だ。続いて、地政学をみてみよう。

多様化と地政学の相性

  • 地政学に基づき対外政策を検討している代表的な国家がある。それは、ロシアとドイツであると言われている(「現代の地政学(犀の教室)」,佐藤優, 2016)。地政学の定義は同著でも言及されているように、ある国家にとって長い時間が経っても変えられないもの、つまり山脈や海洋に囲まれているとかある宗教の信者が多いなどのような要素の影響を受け、長い期間その地域なり国家の構成要素となる人々の間に語り継がれ続けた結果,無意識的に前提として共有されているものと考えておこう。
  • 特にロシアはユーラシア主義と言われている。ユーラシア主義とは、その名の通りユーラシア大陸のど真ん中にあり、ヨーロッパとアジアの双方にまたがる大国であるロシアには、独自の法則のようなものがあるという考え方だ。ロシア革命後の1920年〜30年代、ヨーロッパに亡命したロシア知識人たちの間で盛んに議論され、スターリンがソ連の実権を握って以降は弾圧の対象となり、ソ連崩壊後にその考え方はロシアに引き継がれている。
  • ユーラシア大陸の広大なその土地には、スラブ人やトルコ系、ペルシャ系の民族やイスラム教徒やシャーマニズムなど、それこそ他の民族国家のような単一の民族や宗教的なマジョリティが存在しない。多種多様な人が入り組んで存在している。考え方、価値観、文化的背景が大きく異なる人々に国家のイデオロギーとして掲げるには、共通的要素、つまり地理的条件を基にした地政学は相性が良かったのだろう。そこで生み出されたのがユーラシア主義だ。ヨーロッパを代表とする西欧的価値観でもない、共産主義でもない独自の発展の仕方がある、という考え方は地政学的な発想によるものと考えられる。

多様性と共通項の関係

  • 以上見てきたように、ある集団内の要素が多様化され,集団自体が多様化していくと、その集団にはなんらかの共通的要素が求められる。コミュニケーションの場では、それが論理という構造として求められる。国家という集まりでは、それは地政学という構造として求められる。
  • これは単なる要素の集まりを集合といい、そこに連続概念を持ち込んだものが位相であるという関係に似ている。単なる人の集合ではなくて、なんらかの共通点で括られた位相空間であるーそう言えるためにはイデオロギーが必要なのだ。
  • 多様性に注目する一方で、そこに要請される共通的要素は何かということを考えてみるのもまた新たな視点につながるかもしれない。

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