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決算期を無限分割した時に損益計算書が表すものについての考察

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決算期はいつから1年間になっているのか

  • 損益計算書を見ると、ある会計期間1年間における売上高から種々の費用項目を控除して最終的に得られる「当期純利益」に至るプロセスが読み解けるようになっている。原価率が高すぎるのか、販売コストをかけすぎなのか、金利の支払いが重たいのかなど、さまざまな視点で分析をすることが可能だ。
  • 今では当然のようになっている1年決算だが、元々多くの会社は半年決算だったということはご存知だろうか。1974年の商法改正を機に企業の決算は1年間隔となっていったのだが、それ以前は半期を一つの決算期として開示していたのである。1974年の商法改正の趣旨は、決算期を従来の半年よりも長く取る事による経理負担の削減と、上期と下期で業績が大きく異なる業態(建設業などは下期に売上が集中する)において、上期の決算が悪くなることを恐れて決算内容を平準化させようという操作が行われていたことへの対策である。これにより企業は年間ベースで平準化された損益計算書を開示できるようになったのである。
  • 他方で決算期間が1年間に長期化することによって、そのままでは投資家からするとその企業の業績や財政状態が1年間の間分からなくなってしまうことになる。もともと半年ごとに状況が把握できていたはずが、商法改正により1年ごとでなければ状況が分からなくなるというのでは証券市場の取引の円滑化を害することにもなりかねない。そこで、中間報告制度が同時に整備された。
  • その後、2008年に四半期報告制度が導入され、今度はさらに3ヶ月ごとに決算内容が開示されることになった。投資家はさらに短期間の情報を得ることになったのだ。短期間に素早く投資銘柄の入れ替えや株から債券へのポートフォリオの変更などが求められるような、目まぐるしく変化する世界の経済で投資を行うには、短期の情報が不可欠になってきている。

決算短期化の流れを無限に進めていくと

  • 決算が短期化していく時、その期間の損益計算書は何を意味するだろうか?一般的に、短期間の数字になればなるほどその期間独特の情報がより分かるようになる一方、その分異常な変動要素の影響も見ることになり、ノイズの影響が入り込む余地も大きくなる。1年よりも半年、半年よりも四半期の方がこうした影響は受けやすい。では、決算の短期化をさらに進めるとどうなるだろうか?次の段階としては月次決算が考えられる。実際に大多数の企業は月次で試算表を締めている。経営レベルで最も頻繁に見られているのは月次の損益だったり資金繰りだ。そこにはその1カ月間の行動の結果が残っている。良くも悪くも前1カ月のフィードバックがわかるという意味で、現場感覚により近いものとなる。
  • では、さらに短い期間の損益となるとどうだろう。1日や週単位が考えられるが、ここまでくると流石に大半の企業は把握していない。上場企業でさえそうだ。なにしろ請求書を経理部門に送付するといった日常のオペレーション1つが遅れると、日次決算に影響が出てしまう。しかしまだまだ先に進もう。さらに短い期間となるとどうだろうか?そうなるともはや意味が分からなくなってしまう。1時間あたり?1秒あたり?もはや感覚で理解できるレベルではない。
  • 損益計算書の計算期間を無限小にまで分割していった時に残るものは、数学で言う微分が(例えば)2次曲線の接線の傾きを表すかのように、その瞬間における「収益獲得能力」のような概念に近いものになっていくのではないだろうか。営業マン一人一人の顧客との接点における印象やセールストークの質、またはものづくりの現場では製造に関わる一人一人の熟練度などがイメージに近いだろうか。全国展開しているファストフードなどはこのイメージが掴みやすいかもしれない。店舗で顧客に接している従業員の一挙手一投足の繰り返しが日時の損益を構成しているため、例えば顧客がホットコーヒーのサイズを指定しなかった時はこちらからSサイズ(S、M、Lがあったとして)を指定するというオペレーションをMサイズを指定するオペレーションに変更すると、それだけで全店舗の売上高が目に見えて増加する。これは、全店舗で同じことをしているため、一つの行動を変えることの影響は倍数がかかって大きくなるからである。

収益獲得能力の表出

  • 簿記論の考え方には、将来収益獲得能力を示すとされるものが実は他にある。損益計算書と双璧をなすもう一つの決算書である貸借対照表に計上される資産が「将来収益獲得能力」を表すという考え方である。もともと貸借対照表はその企業が所有している資産と負債の状況(個人で言えば預貯金と住宅が資産、住宅ローンが負債)を表すものとしての位置付けだったが、簿記論の発展とともにその守備範囲が拡大し、その企業が所有する資産は収益獲得能力を示すものとして、いわゆる形のない資産(無形資産)が「あるものとして」認識されるに至っている。その価値をどのように測定するかが問題となるが、それについては「将来にわたって獲得する経済的価値の割引現在価値」が用いられる。しかし全ての資産がそのような計算方法による評価対象になるわけではなく、実務的な簡便性や客観的な金額の把握が可能という観点から、その資産を取得するために支払った対価でもって評価する方法が一般的である。
  • したがって、簿記論が用意した「収益獲得能力としての資産の価値」は、理論的な存在として受け入れることはできても、実務的な要請から完全に資産の評価として根付いているわけではない。そのため、損益計算書を時間微分した時に出てくる極限値としてバランスシートの事業用資産の残高に等しくなる、ということにはならない。バランスシートと損益計算書の中間点に存在している「収益獲得能力」という漠然とした概念になるということで今回は結論づけてしまおう。

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