米映画芸術科学アカデミーが1月13日にアカデミー賞受賞候補を発表したところによると、Netflixの独自制作映画が24部門でノミネートされ、映画制作会社の中で最多となったことが分かりました。作品賞としては「アイリッシュマン」や「マリッジ・ストーリー」がノミネートされるなど、Netflix制作映画は確実にここ数年で伝統的な米アカデミー賞でもその存在感を見せつけ始めています。
年間で独自コンテンツの制作費用が1兆円を超えるとも言われている同社のコンテンツ投資は、日本の民放キー局を全て足しても敵わないほどで、文字通りケタが違いすぎます。
では、なぜこれほどまでNetflixは独自制作に力を入れているのでしょうか。
一般に言われているのは、コンテンツ制作会社に支払うフィーが高騰してきているから、などとも言われています。
しかし、ここで動画コンテンツのストリーミング配信が今後どうなっていくのか、少し考えてみましょう。
すべての余暇消費との戦い
動画コンテンツは、SNSやブログなどの画像や文字ベースでのコンテンツと競合し、スマホを見る時間を奪い合っていると言われています。また、動画コンテンツは余暇消費としての性質もあるため、屋外でのレジャー活動、インドアの過ごし方、果ては睡眠時間とも競合しているとまで言われています。
「仕事などで、スマホを触り続けられない時間以外にできるすべてのこと」と競合していると言っても過言ではないでしょう。
この流れは、その通りだと実感しています。スマホを見る時間がついつい長くなってしまって、睡眠時間が削られてしまったと言う経験は誰にでもあると思います。
この傾向がどんどん強くなると、動画コンテンツにかける時間は相対的に限られてくるはずです。他にもやることありますから。忙しい。動画コンテンツにそれほど時間を使えない。でも動画は見たい、、、そういう人がすでに大量にいるはずです。
そんな時、結構な確率で過去の視聴行動(どう言う場面で見るのをやめたか、誰が出てきたら巻き戻しをしたか、どういうシーンで早送りをしたか、どういう話が好きか、毎週金曜の夜はどういう気分が多いか、などなど)を正確に把握し、適切なタイミングで適切なコンテンツを配信してくれるとしたら、どうしますか?
少なくとも見てしまいますよね。
金曜夜は忙しくて見る時間がない?であれば、時間を短くして送ってくるかもしれませんね。
こういうことをやろうとすると、独自コンテンツを素早く作ることが必須になると思いませんか?
誰がどういうタイミングでどんな感情の時にどういう動画コンテンツを見たいと感じているか。これに合わせて逆算でコンテンツを作ることができれば、ヒットする作品を簡単に作ることができます。その年の社会のムードに合わせて人に評価されやすい作品を作れば、アカデミー賞の受賞だって簡単になるかもしれません。
僕は、Netflixが独自制作にこだわるのは、同社が「データドリブンな動画配信プラットフォームであり続けること」にとって最も重要なのが、「独自で動画コンテンツを作れる体制を持ち、特定の国の動画配信会社とのライセンス契約などの縛りから開放されること」と考えているのが最も大きい理由だと思っています。
Netflixはエンターテイメント業界のユニクロ、ZARAか?
こうして考えると、Netflixのビジネスモデルはアパレル業界で独自で企画・制作・販売までを一貫して行うユニクロやZARA(Inditex社)と似ているなあ、と思います。
いわゆるSPAと言われるこれらの会社は、これまで色違いやサイズ違い、トレンドの流れなどから毎年無駄な在庫を抱え、大量に廃棄商品を生み出してしまうアパレル産業の慢性的な問題に取り組み、効果的な解決方法として自社で企画から生産・販売を一貫して行うというスタンスをとっている会社です。
コンテンツを「時間という在庫」と考えると、映画の中にも無駄な在庫がありますよね。このシーンは特に必要なかったとか、単に時間を2時間近くに合わせるためにそういう構成になってしまっていたとか。そういう無駄を視聴者の行動から読み取り、視聴者の時間という在庫をより有効に使えるようにする。
ユニクロやZARAの成功を見ていると、Netflixはまだまだ成長余地があるのではないか、と思います。