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イコールで結ばれたものについて考えてみよう

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イコールが結ぶもの

  • 私たちはあるものとあるものが等しい関係にあるとき、それらをイコールで結ぶ。イコールという記号によって、その左辺と右辺が同一であることを認識する。例えば、1 + 2 = 3 などだ。もっとも頻繁にイコールを使うのは、算数や数学の分野だろう。日常で言うとお金の支払いや受取りの時だ。数字と数字、金額表示されたモノの価値とお金などの間でイコールが成り立つ時、私たちは納得することが多い。
  • また、例えとしてイコールが用いられる時もある。例えば新型コロナ感染=風邪といったとき、私たちは新型コロナウイルスに感染するということが、風邪をひくようなものだと言っている。両者は決して同じものではないのだが、同じようなものだと言いたいのである。
  • さらに、同じものを分解するようなときにもイコールは分解前と分解後を結ぶ。売上高=販売単価 x 販売数量と言ったとき、左辺の売上高は右辺の2要素に分解されて把握されている。つまり売上高の変動要因を追いかけたい時などに、全体としての売上高を追うよりもその構成要素である量と単価に分けた方がどちらの要因がより影響したのか分かりやすいからだ。この時、分解前と分解後が等式で結ばれるということは、分解の仕方を誤って足りない要素が出てきたり、分解したつもりがダブる項目がないように正確に分解せよ、という要請をイコールの記号が表していると考えることもできるだろう。このような要請はコンサルティング業界で「MECE」と言われている。「Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive」の頭文字4つを繋げたものであり、ロジカルシンキングの基本中の基本だ。
  • 簿記論ではバランスシートという表が作成される。バランスという名前がついている通り、その企業が保有する資産全体の合計額は、その企業の負債総額と純資産(=資本)の合計額に等しいという大前提で作成されている。つまり資産=負債+資本だ。これは複式簿記が要請するルールであり、貸借が一致しないバランスシートはあってはならない。このとき、イコールの左右はどういう結びつきなのだろうか。資産総額は現にその企業が保有している資産の金額の総合計である。目に見えるものだったり債権のように取引関係から生じているものであるためイメージしやすい。一方負債総額、資本総額は資金の調達元を表しており、具体的なものとして確認できないため少しイメージしづらい。負債と資本の区分は、左辺の資産が借入等によって調達した資金で賄われたのか、それとも自己資本として調達した資金で賄われたかの違いである。負債と資本が調達元なら、資産はいわば調達した資金の運用状況である。そのため両者は恒常的にイコールとなるはずである。
  • もう少し他の分野を見てみよう。マクロ経済学の分野では、「三面等価の原則」が成り立つ。三面等価の原則とは、1国がある年度において生み出した付加価値の総額(国内総生産, GDPと言われる)は、それを生産面から見て集計しても、分配面から見て集計しても、支出面から見て集計してもいずれも同じ値を取るというマクロ経済学上の原則である。1国の経済というものを価値の動き(=フロー)で捉える前提で、その価値の動きが購入と販売(支出と生産)、販売と経費支払(生産と分配)、給与収入と消費(分配と購入)という形で循環していることを表しており、同じものをそれぞれ3つの側面で捉えたものだ。
  • このようにイコールが結ぶものは何らかの形で同じものであることを示している。ところが、イコールで結ばれた数式の中でもトップクラスで有名にもかかわらず、イコールの左辺と右辺とが等しいと考えていいのか分からないものがある。

もっとも有名な数式

  • アインシュタインが提唱した下記の数式を見たことがある人は多いだろう。

$$E=mc^2$$

  • これは有名な「エネルギーと質量の等価性」を表す数式だ。左辺はエネルギーを意味する。エネルギーとは、物体に物理的、または化学的な変化(またはその両方)を引き起こすものであり、具体的にはものを動かしたり熱を出したり、光を放ったり音を出すような原因となるものである。このような説明でなんとなく理解はできるだろうが、エネルギーは具体的なものとして存在しているわけではないため、イメージがしづらい面もある。
  • 右辺は物質の質量と光速の二乗から成っている。光速の二乗は約\((3\,0\,0\,,0\,0\,0\,,0\,0\,0\,\,m/s)^2 \,=\, 9.0 \times 10^{16}\)となり、一定の値をとる定数である。そのためこの等式は、実質的にはエネルギーが質量に変わる、言い換えるとエネルギーと質量は等価交換されるということである。これはどういうことだろうか?エネルギーという「概念」が「質量」という具体的なこの世に存在する何かに変換されるということを言っていると解釈することもできる。例えると,「リンゴ」という物質が「赤色」という「概念」に等価交換されると言っているようなものである。
  • この意味を理解することは困難だ。物質が概念に変わることなどない。また、何らかの概念が物質化することもない。これが私たちが生きている日常の姿である。ところが、アインシュタインが生み出したこの有名な式は、私たちに日常の想像を超えた解釈を要求する。
  • 一方で実際にこの等式の具体的な応用例として知られているのは原子爆弾である。広島型原子爆弾で利用されたのはウラン65kgであり、そのうち核分裂反応を起こしたのは1%程度、つまり1kgにも満たない量である。さきほどの数式を見ると質量(g)は10の16乗された倍数でエネルギーに換算されるため、たった1kg(=1,000g)未満の物質で広島市の中心地を焼き尽くすほどの威力を示した。
  • \(E=mc^{2}\)という式の等価関係を理解することは難しいが、質量をエネルギーに換算するようなことは上記のように核爆弾や同じ原理を用いた原子力発電として実用に供されているのである。

イコールで結ばれたものの解釈

  • このあたりで今回の話をまとめよう。私たちはイコールで結ばれたものについて「等しいもの」「同じもの」という感覚を持っているが、よく見るとその中身は必ずしもそうではない。実質的には別のものだが例えとして繋げているだけの場合もあれば、左辺が分解されて右辺に展開されるときに漏れやダブりがないようにという要請をイコールの記号が表しているケースもある。また、三面等価の原則のように、同じものを異なる視点から見ただけだから同じになるはずだという「同じとする定義」の場合もある。無意識にイコールを眺めているとこのような、「イコールの背景に隠された暗黙の合意事項」が見えなくなる時がある。
  • 私たちはイコールで物事をつなげるとき、そこに「左辺と右辺は同じようになるように解釈せよ」「左辺と右辺は等しいものと見ますよ」などという隠れた文脈をともなった宣言を行なっているのだ。私たちが安心してそのイコール記号を受け入れることができるのは、本来その要請が満たされていることを確認したときのはずだ。ところが算数授業などで何気なくイコール記号を使っているうちに、イコールで繋がれたものを見たときに無条件で「等しいもの」とする条件反射のようなものが埋め込まれてしまったと考えることもできないだろうか。

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