崩れる日本型採用
- 最近、従来の日本的雇用の特徴から脱しようと言う動きが一部の上場企業の間で出てきている。NECでは研究職での新卒採用を対象に年収1,000万円を可能にする仕組みを2019年から導入しているし、三菱UFJ銀行では銀行業界に急務とされているデジタルトランスフォーメーションやフィンテック分野における優秀な専門家人材を採用するため、2022年春入社の新卒採用において、能力によっては最大1,000万円を支給する制度を整えた。このほか、回転寿司チェーンを運営するくら寿司では、2020年春の新卒採用で将来の幹部候補生として1,000万円の給料を設定して話題を呼んだ。26歳以下でTOEIC800点以上、簿記3級以上が応募条件になるという。一般的に飲食業の新卒採用者の年収は低めで設定されるため、くら寿司の待遇は異例だ。
- このように高度な専門的スキルを持つ人材等であれば、若くても1,000万円というサラリーマンでは破格の初任給を出す企業が増えてきているのは、これからの時代を切り開くための技術や高い専門能力を若い人が持っているはずで、そういう人たちを従来通りの大卒初任給などの一律評価で待遇していたのでは他社に取られてしまうという危機感の現れと捉えることができるのではないだろうか。
- こうした動向はスキルや専門的能力に応じて給与が支払われる性格をより色濃く打ち出したものとして、これまでの日本的雇用形態の特徴だった人に仕事をつけるという方向とはまた別の、いわば仕事に値段がついていてそこに人をはめ込むという方向へのシフトであると言う話もある。
- こうしたシフトを「ジョブ型雇用」へのシフトというように、日本的雇用形態もフリーランスの増加や副業の解禁などとともに変化してきているのだろう。
そもそも専門家とは?
- では、ジョブ型雇用への移行に合わせて誰しもが何かの専門家になればいいのだろうか?よく考えると、高度な専門家人材、というような言い方をされてもその中身は多種多様である。人工知能のプログラミングができる人材やディープラーニングのプロセスを設計できるデータサイエンティストなど、引く手数多な高度専門家は確かに存在している。しかし、こうした今現在の技術革新の先端を走る分野の専門家については、これまでも常に一定数需要があるものの、その育成が追いつかず需給のアンバランスが生じ、結果的にその分野での専門家人材がマーケット需要に対し希少価値を持つようになって給与が上がり、それを目論んだ後続の人たちが殺到することで供給量が増え、結局当初の希少価値は数年で薄れる、と言うようなことが起こる世界だったのではないだろうか。
- 専門家が専門家たる所以は、社会の技術革新や多くの人が「こういうスキルを持った人が必要だ」と認め、その必要性を広く認識された分野についての高度な経験や知識を持っているからこそである。つまり、「専門家」の存在は社会が要請するものということだ。だとすると、専門家はたえず動き続ける的のような存在に対して狙いを定め続けなければいけないと言うことになる。
- 専門家への道のりは深く掘れば掘るほど、実はまだまだ浅瀬にいたと言うようなことが時折起こるような、あたかもフラクタル図形のような果てしなく自己相似が続いていくような、そういう道のりなのではないだろうか。