かつてのベースロード電源の今
- 四国電力伊方発電所3号機の運転差し止めを命じた広島高裁の仮処分決定を巡り、四国電力が決定の取り消しを求めた異議審で、広島高裁は18日、異議を認めて再稼働を容認する決定を出した。四国電力によると、3号機は現在、テロ対策施設の工事を進めており、10月末にも再稼働する見通しとなった。
- 東日本大震災の後、日本の電力供給のあり方は大きく変わった。東日本大震災の発生前、日本には54基の原発があり、日本で使う電力の30%前後を原子力で賄っていた。しかし、東京電力の福島第1原子力発電所の事故により、原発に対する不信感や不安感が強まり、原発の位置づけは大きく変わった。
- nippon.comによると、事故から10年が経過した2021年3月時点で地元の同意を得て再稼働した原発は大飯(関西電力)、高浜(関西電力)、玄海(九州電力)、川内(九州電力)、伊方(四国電力)の5発電所の9基のみ。一方、東日本大震災以降に廃炉が決定した原発は21基に上る。
- かつて原子力発電はその安定供給力とコストパフォーマンスの良さでベースロード電源として日本の電力供給の30%を担っていた。 ベースロード電源とは、安定的に供給可能な電源であり、例えば太陽光発電のように晴れか雨かでパフォーマンスが大きく異なるようなエネルギーはベースとはなりにくい。
- 夏の暑い日など短期的に電力需要のピークが来る時の対応は、日本であれば石油を用いた火力発電などにより賄われる。他方、需要が変動しても常に最低限必要なレベルの電力需要量はベースロード電源を中心に賄われる。それぞれ発電効率の異なるさまざまな発電方法を組み合わせて最適化しているのだ。
- このように変動するなんらかの要素を特徴別に何層かのレイヤーに分類し、それぞれ扱いを変えることで全体のパフォーマンスを最適化できることがある。そこで以降では、いくつかの例をみてみよう。
緊急度と重要度のマトリクス
- 私たちは日々、色々なタスクに囲まれて生活している。仕事で誰それに明日連絡を入れなければならないとか、プライベートでは牛乳がなくなるので買って帰らなければならないなど、大小様々なタスクである。このように期限も重要度も異なる様々なタスクに直面しながらそれらを限られた時間でいかに生産的に対応するかと言うことは現代人であれば誰もが課題意識を持っているのではないだろうか。
- 「7つの習慣」(スティーブン・R. コヴィー,1996)では、「緊急度」と「重要性」をそれぞれ縦軸、横軸にとったマトリクスが紹介されている。大小色々あるタスクの山を、このマトリクスに基づいて分類していくと何から手をつけていけば良いかについての指針が得られる。つまりタスクの山を何層かのレイヤーに分けることができる。
- マトリクスで重要なのは、誰もが当然にもっとも必要性が高いと思うであろう「緊急かつ重要」のブロックに入るタスクよりも、緊急度が下がった「緊急ではないが重要」のブロックに入るタスクこそが取り組むべき必要性が高いと述べていることである。
- 我々はどうしても日常的に大量のタスクを処理している関係からか、緊急かつ重要なタスクに注力しやすい。緊急性が高いものは重要である、と錯覚しやすいと言うことでもある。また、そのタスクに取り組んでいるうちは「仕事をこなしている感」も帯びてくるため、むしろ積極的に取り組みたくなるような性質がある。
- ところが、その背後で長期間に渡って存在しているものの緊急性がないため、後回しにしているタスクが燻り続けている。このタスクはどちらかと言うと長期的な環境変化を前提にした時に対応が求められるものの、今すぐ対応するには少しハードルが高いと感じたり今すぐ対応しないと困ると言うようなものではないだろう。それらを放置せず、むしろこれこそが取り組まなければならないものなのだ、と指摘できたコヴィー博士は慧眼である。
- さて、次にまた分野を変えて検討してみよう。
決算書の構造
- 決算書とは、企業が作成する1年間の成績表のようなものであり、1年間で儲かったかどうかを表す「損益計算書」といわれるものが含まれる。
- 損益計算書の構造は、売上高、売上原価、売上総利益、営業利益、経常利益、税引前利益、税引き後利益と言うような「段階損益」で表される。
- 特に重要なのは営業利益である。営業利益は本業の儲けを表すとも言われている。例えば本屋の損益計算書をイメージしてみると、売上高は1年間で販売した本の値段の総合計である。また、そこから本を仕入れた時に払った値段の総合計を差し引き、さらにそれ以外でかかっている費用(店舗の人件費など)を差し引いて残った営業利益が本屋の儲けである。ここに、たまたま大量に売れ残ってしまった本を廃棄処分したような時は、この営業利益には費用として含めない。なぜなら臨時的に発生したものであり、来季以降は発生しないと考えられるからである。こうした経常的に発生しない費用や収益は営業外損益として表示される。つまり日常的な費用・収益ではないということだ。
- 損益計算書の営業利益はいわば「日常的に何度もやり取りしている商品やサービスでどれくらい儲かっているか」という指標であり、経常利益や税引前利益は「そこからたまたま当期発生したが毎年は発生しない」ような損益を差し引いたものである。
- これらの処理によって、1年間の取引を本業部分からの儲けと臨時的な部分からの儲けに分けて把握することができる。このレイヤーは非常に重要である。なぜならば、今後も継続的に発生が見込める「儲け」なのか、たまたま今年発生したもので儲かっているだけであり、今後は発生しないのでそれを当てにすることはできないという「儲け」なのかが判別できるからである。
まとめ
- このほかにもレイヤーを作ることで対応を変え、全体を最適化できる事例はまだまだ存在している。混沌とした全体に出くわした時、対象をレイヤーに分けることで何か突破口が見つかるかもしれない。