拡大するフォロワー=インフルエンサー経済
- トレンダーズ株式会社は3月15日、20代〜40代の女性527名 にインフルエンサー好感度の調査を実施し、20代の7割以上が「インフルエンサー消費」の経験があるとの結果になったと報じた。好きなインフルエンサーがいるのは調査全体で31.5%、20代に限っては46.8%にのぼるという。調査においてインフルエンサーの定義は「主にSNSでの情報発信で影響力を持っている人」であり、いわゆる芸能人は除外されている。調査対象はあくまで「女性のみに限定」されているものの、インフルエンサー消費が若い世代を中心に定着していることがわかる。
- かつてのTV広告の時代から随分と変わったものであるが、こうしたフォロワー群とその中心にいるインフルエンサー達が生み出す経済空間のようなものが無視できないレベルになってきたのではないだろうか。多くの芸能人がYoutuberとなった今、かつてのマス・メディアとしてのテレビは魅力が薄まってきたのだろう。
- このような拡大しつつある経済現象をいま、「フォロワー=インフルエンサー経済」と呼ぶことにしよう。この経済現象を読み解くのに、一つヒントになりそうな書籍がある。それは少し古いが「新・資本論」(大前研一,2001)である。
4つの経済空間
- 同書籍は米国におけるインターネット・バブルの後期にその時代のトレンドから読み取れる近未来の絵姿を描き出したものであり、インターネットが経済に大きなインパクトを与えるようになる姿を正確に予想している。ただ、従来からある実際のモノや人を介したサービスしか知らない伝統的な経済に属している人からすると、インターネットが生み出す膨大なビジネスの可能性が見えないこともあり、著者はそのような新しい経済空間の萌芽を「見えない大陸の出現」と例えている。
- 同書籍によると、経済空間は以下の4つの互いに影響し合う経済空間の相互関係からなっている。
- 実体経済
- ボーダレス経済
- サイバー経済
- マルチプル経済
- 実体経済とは、従来から続く伝統的な実物経済である。ボーダレス経済とは、国境を超えてヒト/モノ/カネ/情報が自由に行き来する経済空間である。現時点ではこのうちヒト/モノについてはコロナ禍により縮小している。次にサイバー経済とは、いわゆるインターネット経済である。ネットを用いて今やなんでも手に入れることができるようになった。GAFAと言われる巨大企業も主としてこのインターネット経済空間を我先にと開拓した先駆者である。
- 最後にマルチプル経済とは、主として金融・株式市場で現れる、「もとで」の何倍もの取引を可能とする経済空間である。その会社の利益に対して高い倍率がつけられた企業は、高い株価を上手く使えば株式交換等により実際に存在する会社を買収してしまうことができる。売上高や利益、純資産などが小さい企業が、高い株価倍率をテコにして大きい企業を飲み込んでしまうという様なことが起こる。
- 株式市場は、投資家がどのガンマンが撃ち手として優秀なのかを見極め、これぞ思った企業には大量に実弾(高い株価倍率)を与える。そして企業はガンマンとして、マーケットから補充された実弾を撃つことを期待されているようなものだ。
マルチプル経済空間の相似形
- さて、ここでフォロワー=インフルエンサー経済は、上記の4つの経済空間とどういう関係がありそうだろうか?一つ考えられるのは、フォロワー=インフルエンサー経済は第4の経済空間すなわちマルチプル経済空間の相似形なのではないだろうか。
- インフルエンサーはフォロワー数という実弾をもって、到底1人では物理的に賄い切れないほどの影響力を一瞬に、かつ効果的に及ぼすことができる。インフルエンサーは自分という「もとで」の何倍もの影響をフォロワーを通じて与えることができる。こうして株式・金融市場を主としてその活動舞台としていたマルチプル経済は、その相似形を通して日常に浸透していく。
- マルチプル経済空間は本質的に不安定化を招く。経済の主体としてこれまで大きな影響を持っていた企業体は、レバレッジをかけた個人の集合にその座を譲る時がくるのだろうか。