アスクルの岩田社長がヤフーと資本提携を解消すると突如発表しました。その背景には、アスクルとヤフーが共同で進めているBtoCのEC事業(LOHACO、「ロハコ」)をめぐる対立だとのことです。
まず、アスクルはヤフーの連結子会社です。ヤフーは単独でアスクルの40%以上の株を持っているので、圧倒的な支配株主になっています。資本主義の世界では、議決権の大半を持つ親会社様のご意向とあらば、子会社は「ハハァ~!!」と、伏して聞かなければなりません。
だって、株式会社は株主のもので、その株主の中でも最大の支配株主が40%以上も持っていたら、議決権を数の論理で牛耳ってしまえるわけです。
だから、僕が岩田社長の立場にいたとしたら、何はともあれ「ハハァ~!!」と地面に額をこすりつけるくだりから物事を始めるしかないと考えてしまうわけです。
ところが、岩田社長はそうはしなかった。
なんと、反撃したのです。今回のゴタゴタの経緯を、あえて誤解を招く恐れのある表現をしつつ妄想をふんだんに交えて解説すると、下記のようになります。
―――――――妄想スタート――――――――
Yさん「おい!お前!なんやウチと一緒にやっとる事業で赤字ばっかり垂れ流してるそうやんけ。いつまで垂らしとんねん!売上増えてるからいいやんっていうけどな、儲かってなんぼなんや!しかも赤字額が毎年増えてるやんけ!もうお前には任されへん。お前のシマ、こっちによこせ!」
Iさん「ちょ、それはあきません。待ってください。落ち着いてください。僕がやってるA事業と一緒にしないと、このL事業は伸びないんですよ。赤字は確かに増えてますけど、一緒にこの事業で世界獲ろって夕日見ながら肩組んで叫んでたじゃないですか。もう忘れたんですか?」
Yさん「。。。まあ、そういう話もしてたけどな。こっちにもいろいろ事情があんねん。A事業と一緒にせなあかんっちゅうのはまあその通りや。せやけどな、なかなか黒字化させへんお前の手腕にこっちはしびれを切らしとるわけよ。分かるやろ?このままいくと、お前の首が危ない。昔のよしみでゆうたってるんやけど、お前、退いた方が身のためやぞ。」
Iさん「いや、そんなこと言われても。もともと「心はアツく、事業は冷めた目で」っていう僕の方針に賛成してくれたのはYさんですよね?だから一緒に世界獲ろって盃を交わした仲であっても、ちゃんと親子関係には一線引かせてくださいって言いましたよね。親の言うことをそのまま「ハイ、分かりました」とは聞けない立場なんですよ。分かりますよね?僕にもスポンサーがほかについてるわけでして。だから、この件はウチの幹部会で取り扱うことになります。僕の一任では決められません。」
Yさん「そうか。お前も所帯持って変わったな。偉くなったつもりでおるんやろけど、まあよくよく考えて答えを出すこっちゃな。」
Iさん「変わったのはそちらの方ですよ。どうやら話していても無駄なような気がしてきたので、こちらも離縁を含めて検討させていただきます。もうあなたとは同じ夢を語ることもできないと分かり、とても残念な気分です。」
――――――― 妄想END ――――――――
とまあ、なんだかよく分からない世界観になってしまいましたが、こんな感じでやりとりがあったのでしょう。
詳しくは下記の経緯をご覧ください。はじめからこれ見てたらいいっていう話ですけども。
(出典:日本経済新聞)
アスクルはLOHACO事業をヤフーと始め、連結子会社となったわけですが、アスクルはなんといっても上場企業です。
上場企業が親会社を持つということは、実はあまり良くないことなんです。
なぜか?
「ハハァ~~!!」ってなるからですよ。
「ハハァ~~!!」ってなると、どうなるでしょう。親会社がお金欲しいなあ~って思ったら、子会社に「おまえ、ちょっと金融通せいや」となって、「ハハァ~~!!」ってなって、親会社はいろんな形で子会社から利益なり資金なりを吸い上げることができてしまいます。
それでも、そんな関係はそれこそ日本中、いや世界中あちらこちらで見られる、「資本主義の理想形」なのです。親会社が議決権を通して子会社を支配する。当たり前の光景です。
じゃあ、それがなぜアスクルの場合はまずいのか?というのが本来するべき質問です。
で、上場の話になるわけです。アスクルの株を持っている人、いますかね。個人でもアスクルの株を買うことはできます。株を買うと株主になり、ヤフーと肩を並べる存在になれるわけです。ただ、議決権比率が圧倒的にヤフーがでかい、ということになります。
例えば、あなたがアスクル株を1株持ってましたと。大株主のヤフーさんが、圧倒的な議決権を背景に、アスクルさんの虎の子事業を奪い取ってしまったら、あなたの株はどうなるでしょう。株価が大きく下がってしまうかもしれません。それでも資本の論理では、圧倒的議決権を持つものが強いのです。少数株主はどうしようもない。でもそれだとみんな嫌がって個人は株を持ってくれないってなりますよね。だから、少数株主もちゃんと保護していきましょうという、「資本の論理の行き過ぎにブレーキをかけることで、少数派意見を尊重する側にバランスをとる」という知恵が出てくるのです。
一言で言うと、「上場子会社の親会社からの独立性」となるでしょうか。
岩田社長は最大株主のヤフーから次は取締役を再任しない、って言われるともうどうしようもありません(厳密にいうと、もう一人の大株主、プラス株式会社もヤフーの意向に賛同しているので、両者を合わせて議決権比率は50%を超えるため、この2者だけで岩田社長を再任しないことを過半数で決議できてしまう)。
だから、プレスリリースで経緯を含め、開示して自分の考え方を主張した。
でも「俺が始めた事業や、アスクルは俺のもんや~~!!誰にも渡すか~~!!」って言ってるようにも聞こえかねない。
単に自分が社長から降ろされそうになったから、ヤフーのひどさを主張して。そう見ている人も実際いてると思います。
がしかし、岩田社長の主張を想像してみましょう。指名委員会で自分を再任する案を株主総会に出す、と決めてんのになんでヤフーは圧をかけてくるんだ、と。おまけにアスクルの独立取締役のレポート(2019年7月10日付)を見ると、下記のように記載があります。
(出典:「ヤフー株式会社からの社長退陣要求と、アスクルからの提携解消協議申入れのお知らせ」別紙 アスクル独立委員会名義の文書より抜粋)
単に業績の低迷を理由に社長を解任するならまだしも、LOHACO事業が欲しい、そのためには岩田社長を退任させる必要がある、という構造になっていると岩田社長は認識していると思われます(そして、独立委員会ももちろんそう認識している)。
もしこの記述内容が真実であれば、LOHACO事業をいったん売ってくれ、と打診してそれは無理や、と跳ね返したら「真剣に検討してくれてありがとう」と言っておきつつ、裏で「岩田社長を引きずりおろしてからゆっくりとうるさい反対派がいなくなった会社で議決権をふるってLOHACO事業をこっちに売却させてやろか~~」と思ってるんちゃうんか、と岩田社長が疑念を持つ(と思われる)のもよくわかります。
その疑念が「乗っ取ろうとしている」発言につながった。
そもそも、指名委員会で続投の案を出す決定を正式にアスクルは会社としてしているわけですから、ヤフーはそれを尊重しないといけないと。それを無視して強引に資本の論理を振りかざすと、昔のやりたい放題の時代に逆戻りやんかと。それが嫌やから、ガバナンスを結構ガチガチに組んだのに、あいつらそれを無視しやがって、というところでしょうか。
そうなると、「コーポレート・ガバナンス」が流行りになっている昨今の時代の流れに明らかに逆行していることになります。
だから、岩田社長も黙っていられなかった。私はそう理解しています。社長退任は、責任があると言われれば確かにそうかもしれないと。でもこのやり方は気に入らない。「ハッ、なんやかんやで小賢しいなんちゃら委員会とか作ってるけどやっぱり資本の論理がそのまままかり通るような野蛮な資本市場やのぉ~~、だから親子上場とかやめとけって言ってるやん」と外国人投資家に思われてしまうかもしれない。
単に岩田社長は保身だけで一連の受け答えをしているわけではないのではないか、と思う一連の背景のお話しでした。