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社会心理学講義ー<閉ざされた社会>と<開かれた社会>その2

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非常に暑い日が続いていますが、こんな日はクーラーに当たってゆっくり読書をするに限りますね。

さて今回、私が名著と思って何度も読んでいる小坂井敏晶さんの「社会心理学講義」に出てくる内容とまさに同じような現象が私の身の回りで起こりました。

とあるクライアントからの依頼で、社内の従業員のモチベーションに関する調査結果を見させてもらったところ、「人事評価が不透明」という項目がとても多かったのです。

皆さんなら、ここで「ああ、じゃあ人事評価制度が悪いんだな、これは中身を見て明確化できるようになおさないと」と思いますか?

思いますよね。

私も一瞬思いました。

でもなんか、違和感というか、、うーんなんだろうと。

一方で、上司との仲は非常に良いという調査結果も出ていました。

「え?ちゃんと自分のことを評価できない上司に仕えていて、それで仲が良いと??」

いくら仲が良くても、私ならちゃんと自分の評価ができない上司には近寄りません。

どうしてこういうことが起こっているんだろうと、考えていた時にふと「社会心理学講義」の内容を思い出しました。

人間社会は「矛盾」を媒介にすることによって秩序を保っている側面があるということです。

貨幣制度もそうだし、近代以降の法治国家が前提とする責任と因果、自由意志の関係もそうです。(責任と因果、自由意思の関係については、同じく小坂井敏晶さんの著書「責任という名の虚構」に詳細が記載されています。)

貨幣という価値のないものを価値があると誤認することによって、取引が円滑に進む。

同じく因果を前提に責任を追求しても、無限に因果関係が遡ってしまって、純粋な因果関係のみでは責任はどこかに消えてしまう。

そこで社会が責任を定める必要があるがために、あなたは自由な意思があったと宣言することで責任が創り出されると。なので責任は虚構なのだけど、この虚構があるおかげで社会は秩序を保つことができる。

人事評価制度に対する不満も同じことです。

もし、人事評価制度が完璧に個人の能力を反映し、明確化されたものならば、無能な人は無能であることが徹底的に鮮明にされ、もはや精神を正常に保ちながらその職場で働くことはできなくなるでしょう。

些細な差を見つけては「人事評価が不透明」と言うことによって、その人は無能であることを証明されることなく、その社会で生きていくことができるのです。

つまり、本来は「人事評価は公正明大に行われるべき」と言う一般的なあるべき論がある一方で、「人事評価が不透明だ」と言う意見は常にあり続ける。これは矛盾だ。でも、この矛盾があるおかげで組織間がギクシャクせずに済んでいる、と言う側面は決して無視するべきではない、と言うことです。

今回の件も、よくよく従業員の意見を深掘りして聞いていかないと、この「人事評価が不透明だ」と言う意見が出た、と言う現象を正しく理解することはできないでしょう。

その理解なくして人事評価制度の明確化をテーマにプロジェクトを立ち上げても、また些細な部分をついて「不透明だ」と言う意見は出てくるはずです。

なぜなら、そう言う意見を言うことによって秩序が保たれているからです。

皆さんも、周りでもし同じようなことが囁かれていたならば、一度「本当にそうか?」と疑ってみてください。

特に人事部のセクションの方や、人事部でなくても組織マネジメントの必要性を日頃から考えている立場の方、これらの方はもしかすると「他社はどうやっているのか」ということを近しい知り合いの人に聞いてみたり、「成功事例をうちに適用するにはどうすればいいのか」を考えたりすることが多いかもしれません。

しかし、本質はそこにはありません。

組織を扱う問題は、思っている以上に複雑です。

上記のようなアンケートの結果一つにしても、その解釈の仕方を間違えると無駄なことに自社の膨大なリソースを投入することにもなりかねません。

結局、自分で考えて、正解かどうかも分からないまま一旦その時点での仮の答えを出して行動しながら軌道修正するしかないのです。

そして、自分で考える時に力になるのが「本との対話」です。

人との出逢いはコントロールできませんが、本との出逢いならお金さえ払えばすぐにでも開始できます。

いつ、どの本がどういう形で自分の周りの物事を良くするのに貢献してくれるのかは、分かりません。

その時々で気になったテーマを掘り下げて、自分の専門かどうかも関係なくただひたすら求め続けていくことで、本で読んだ知識が現実の役に立つ瞬間がやってくるようになるのだと思います。

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